サッカーコラム|福島正秀




はじめに

指導者が読むべきサッカー基本技術の運動理論

サッカーは、子どもから大人まで、誰でもできるスポーツだが、
奥は深く、基本を忘れると痛い目にあう。
では、指導者が押さえるべき基本とはいったい何だろう。
40年以上のサッカー指導生活を経て、著者が辿り着いた理論がある。
正確にボールが飛ぶための筋肉の運動
試合を読み解く力、あるいはヨーロッパ仕込みのシステム
それらは近代から現代に至るサッカーを底流する
シンプルで普遍に充ちたものだ。






2つの局面とテーマ

サッカーの授業や部活には2つの活動があり、テーマが存在している。指導者は、局面を分け、テーマを意識しないと、失敗する。

2つの局面とは、(ⅰ)個々の戦力をいかに高めるか、であり、もう一つは、(ⅱ)試合をどう戦うか、である。

指導者は、それぞれ局面で、理論と技術の基本を徹底させることが重要だ。

個々の戦力をいかに高めるか

個人戦力を向上させる場合、重要なことは3つである。

a.基礎プレーから始めて、次第に高度な練習を行う。
これを怠り、試合ばかり夢見ていてはい けない。技術をおぼえ、それに習熟するよう繰り返し反復して練習する。基礎プレーは毎回、少しずつでもやると、出来上がった回路は消えることはない。しかし、それを怠ると消失する。

b.≪練習の法則≫を体得させよ。
最初は簡単に出来る、やりやすいことから始め、次第により高度な条件付きのものへと移する。ボールをちゃんとけれないのに、センターリング・シュートをしても無駄である。

試合をどう戦うか

戦術論を教え、試合をどう戦うかを決定させるには、具体的に、次の3点を行う。

今日・明日のこれからの試合で、
a. 相手の戦力を分析する。
b. その他の与件、ピッチのサイズ、天候、風向きなどを考慮に入れる。
c. 現在の戦力でその試合をどう戦うかという戦術を決定する。





理論と実践で理解させる

(ⅰ)と(ⅱ)、この2つを区別することなく混同したりすると良い成果は得られない。 その場で指示しても、練習していなければ直ぐには出来ない。

また、より高度な戦術を採ろうとしても、技術的な裏付けがないとできない。

(ⅱ)の議論はできても、技術は簡単には手に入らないから、(ⅰ)と(ⅱ)を区別し、どんな戦術にも対応できるように、(ⅰ)の練習をすることが重要である。

実践では、技術と戦術が伴い、いずれか一方を欠けては勝利に結びつかない。日々の活動において勝利が最終のゴールでないケースもあるが、そうだとしても、技術と戦術が向上することはあり得ない。

戦術の指導を疎かにしない

指導者のライセンスを与える講習では、技術の説明は全くない。技術が備わっているから、あり得ないことだ。

従来のテクニックの指導は問題があるはずなのだが、それは隠されているのではないのか? 

かなり以前、サッカーではあり得ないキックとかが明らかに存在したが、それを指摘し、直させたのは1960年に来日したデットマール・クラーマーだった。その後、継承されていない。

戦術は個々の試合によって異なるが、それでは何千、何万という数になってしまう。しかし、 一方では、「サッカーの試合はこうするんだ」ということを示す必要もある。そこで考え出されたのが「戦術理論」である。



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ここでは、 個々のプレイヤーがもつ各々の能力は、「普通の戦力」と考える。

例えば、右図で、d.が相手の意図を見抜き、素早く、あるいはa.がボールをb.に渡そうとした途端にd'に走れれば、2本目のパスは通らないわけで、この様な守備をされたら、攻撃側は、攻め方を変更しなければならないだろう。

理論通りプレーしていたら負けることになる。

しかし、極めて高い技術をもった世界標準クラスのプレイヤーを集めた集団でなくても、「普通の戦力」の集まりでしかないチームが勝利を手にすることがある。

この連載では、この点を明らかにしていく。

つづく






福島正秀 FUKUSHIMA Masahide


元早稲田大学高等学院サッカー部元監督
現在、同サッカー部部長。同校教諭、早稲田大学講師。
豊臣秀吉を支えた側近、戦国大名福島正則公直系の13代目子孫。
軍師の血を引き、サッカーの戦術戦略研究に日々、余念がない。